一瞬、頭の中が真っ白になった。


「恥ずかしながら、私は医術と剣術ばかりで、独り身のままこの年になってしまってね」


虹庵は照れたように微笑んだ。


私が初めて見る──

少年のような──
あの円士郎のような──

飾らない、
透明な、
男の顔だった。


「あなたは賢く聡明な女性(ひと)だ」

と、その表情で私を見つめたまま、彼は言った。


「もしもあなたが私のもとに来てくれて、一緒に私の仕事を手伝ってくれたら──
どんなに楽しくて、幸せだろうと──私はいつもそんな想像をしていたんだ」


……ああ。


私の胸の中に、
今さらのように、

かつて円士郎が私に告げた言葉が浮かび上がって揺らめいた。