その言葉にみんなが言葉を
失くしてシンとなった。

「子供じゃないし平気でしょ」

あくまで富谷はクールに答える。
泉川がフォローするように、
そうだよ、平気に決まってるだろ
と根拠もなく言った。

「でもぉ、お嬢様もいないし
暇だし、わたし達
解雇されたりしませんよね?」

佐久間の心配事は違うところに
移ったようだった。

そんな佐久間に溜め息を
吐きながら富谷は、
柊さんも大変ね、と問題の菖蒲の
部屋の方へ再び目を向けた。






菖蒲のヒステリックな声に
柊はただ耳を傾けて
静かに聞いていた。

「なんて恥さらしな子なの…」

怒りが収まらない菖蒲は
机を激しく叩くと
そのまま顔を伏せる。
大きい皮製の椅子が菖蒲の動きで
軋んだ音を立てた。

無造作に下ろされた髪を
掻き上げながら顔を上げると、
鋭い視線を柊に向ける。

「早く連れ戻して」

搾り出すように低い声で言う。

菖蒲とは対照的に穏やかな声で、
心当たりをあたってみます。と
柊は答えた。

菖蒲は頭を抱えて深く
溜め息を吐く。
顔に疲労の色が滲んでいた。