それはアレクシスの小綺麗な格好と、新しい鶏を下に置きたがる先住鶏達の心理というものに違いなかった。

 アレクシスの実家はリリシエルの国土の北端、海峡に面する港湾都市であり、莫大な領土を抱えるカーナヴォン伯爵家である。伯爵家第一子息という肩書きに相応しく、アレクシスは豊かな環境で育っていた。親から与えられてきた着るもの、食べるもの、知識や武芸も、大領主にひけ劣ることはない。
 騎士とは原則として貴族がなるものだが、貴族といっても様々で、没落した家もあれば名ばかりの貴族も沢山あった。
 アレクシスのような裕福な貴族家庭の場合、金を払って奉公を免除してもらう事が多くなってきていた。独立し、小国となっても何ら不思議ではない大貴族達は、騎士としての国家への奉公に意味を見いだせないからである。
 金を払えない家は、古い掟にのっとり、貧しくとも城で働く。
 アレクシスの場合は、免除できたはずだが、しなかった。
 父親から古き良き騎士の誇りと責任を教え込まれ、身につけさせるために城へと奉公に出されていたからだ。
 厳しい現実を学ぶことも、真の騎士となるためには必要なことだ、と。

「……父上」
 幼い腕が抱えた包みには、繊細な刺繍で家紋が施されたマントも含まれていた。
 大切な、大切な、宝物だった。
 決意の一言を、周りは別な形で受け取った。
「ちちうえー、だーってよ! てめーの親父が、こんなところにくるもんか」
 少年達はゲラゲラと笑い始めた。アレクシスは無言のまま荷を床に置いた。
「おーおー、すなおじゃねーか。てめーの荷物は今日から俺のもんだ。あと、そのキラキラした服も脱ぎな。てめーには、俺のお古をくれてやる。先輩のものは、ありがたく受け取る、ってーのがレーギなんだぜ! なぁみんな!」
 同意を求めた大声。
 子分の少年たちがアレクシスから衣服を剥ごうと胸倉をつかんだ。