気付いたときには、もう遅かった。


彼がいなきゃ駄目な女に、もう自分がなっていたことに、あたしは彼を失ってから気付いた。

彼がいなかった時の自分を、必死で思い出す。


けれど一人でも平気だったあの頃には、もう戻れなかった。




忘れようとしても、忘れられない。


全ての思い出が、宝物のように、彼を失っても未だ光を放って、あたしの頭の片隅に残っている。


その光を、あたしは4年経った今でも、大事に抱えている。



この4年の間に、いい人との出会いはいくらだってあった。
それなりに、アプローチされた時期もあった。
デートだけなら、何回かした人もいる。


けれどどれもが違う。


どれもが、あたしの宝物には程遠かった。



そしてバレンタインが来るたびに、あたしは彼のあのメールを、一句残らず思い出す。




あれ以来、フォンダンショコラは一度も作っていない。



多分あたしはもう二度と、これを作ることはないと思う。



唯一、彼にあげた手作りのもの。最初で最後のプレゼント。


結局、「すき」と一度も言えなかったあたしにとって、あれは言葉に代わる唯一のメッセージだった。














ボーッとしていたら、肩が誰かとぶつかった。ハッとして、あたしは本を閉じる。

なぜだか泣きそうで、あたしは早歩きで、その場を離れた。






切ったのは、あたしだ。


なのになぜ、まだこんなに、すきだと思ってしまうんだろう。