ヤダ…、と身体を捩った棗に玲は
あっさりと拘束した腕を解く。

ベッドの端に座り直して
振り返ると玲が笑って見ていた。

「よく眠れた?」

固まったままの棗の返事を
待たずに起き上がると
台所へ向かう。

その背中を目で追っていたが
不意に棚の時計が目に付いた。

「10時半?!」

目を丸くして思わず口に出す。
何時に寝たか記憶はないが
こんな時間まで寝るのは生まれて
初めてかもしれない。

毎朝柊が部屋のドアを
ノックする時間には決まって
目が覚めていた。

何かの習い事に、語学のレッスン
最近では学校と毎日何かしらの
予定が必ず入っていた。

そこまで考えて棗は眉間に
皺を寄せた。

「…学校は?」

しゃがんで冷蔵庫を覗いていた
玲が振り返る。
サボり、と小さく呟く。

「行っても授業聞いてないだろ」
と、鼻で笑う玲を一瞥して、
高校の勉強はとっくに
終わってるもの、と棗は返す。

「ふーん、俺はまぁできる子
だから。多少は平気」


言って立ち上がると手伝って、と
棗を呼んだ。