全身の産毛が逆立ち、アレクシスの手から逃れる。
「い、いーです! ジパングのおとぎ話で! いえほんと!」
「それは残念」
 冗談なのか本気なのか、分からない。
 意地の悪い笑顔にもてあそばれつつ、少しだけアレクシスから距離をとった。モモが警戒を露わにしたことで、悲しそうな表情を露わにするアレクシスだったが、だまされまいと誓ったモモが冷ややかに見つめた。
「やれやれ……じゃあ、こうしよう」
 アレクシスは葡萄酒を大理石の円卓に置いた。
「君のジパングのおとぎ話をしてもらうかわりに、私もとっておきの話をしてあげよう。悪くないだろう?」
「とっておきの話、ですか?」
「私とひぃさまが君を見つけた時のはなし。もう六年も昔になるのが、信じられないよ」
 少年のようにアレクシスは笑った。

「お互いの、むかし話をしよう」 
 騎士団長さまはいいました。