私の記憶力もたいしたものだわ、なんて思いながら、またあの鉄骨の階段を音を立てながら登った。でも、留守だった。電話してくるべきだったかしらと、後悔しながら、電話番号を知らない事に気が付いて、そもそも、電話なんて持っているのかしらと思った。ドアと枠の隙間から、部屋の中をのぞいてみたけれど、暗くてよく見えなかった。ただ、しんとしていて、不在であることは、間違いなかった。