「まさかこんなに早く手紙の差出人を見つけてくれるとは思いませんでした」

「葉野さんが望んだことです」

達郎はテーブルに缶コーヒーを置いた。

「ですが、残念なことになりそうです」

「残念なこと?」

亜季は首をかしげた。

「あの手紙の差出人は亜季さん、貴女ですね」

達郎は憂鬱そうな声でつぶやくように言った。

「私が?」

「はい」

「なぜそんなことを」

「緒方教授が貴女を振ったからです」

そう言った後で達郎は目を閉じた。

達郎と亜季、2人の間に沈黙が流れる。

しばらくして達郎が目をあけるとそこには、うつむいた亜季がいた。

表情を伺うことはできなかったが、その手は膝の上で固く握り締められていた。

「貴女は親身になって相談に乗ってくれる緒方先生にいつしか憧れを抱くようになり告白をした」

しかし緒方教授にとって亜季は教え子であり、親友の娘。

年は親子ほども離れているし、長年連れ添った妻もいる。