一人で外に出た桜夜は少しだけ気が大きくなっていた。

近くなら平気じゃん。

八百屋につくと大きな声で

「こんにちは。大根下さい」

と八百屋の主人に話しかける。

「お、お桜夜ちゃん。本数はいつも通りかい?」

どこの店も買い物先の主人とは仲良くなっていた。

あ、本数聞き忘れた…。

「うーん。今、何人か出てるんだよね…」

「そうかい?まぁ、足りないよりはいいだろう」

主人は大根を数本、桜夜に持たせる。

う…重いっ。

「ありがと。今日は急いで帰らなきゃいけないから、またねっ」

桜夜が急ごうと振り返った時、ドンッと誰かにぶつかる。

大根が道に転がり、桜夜は尻餅をついた。

ヤバイ。調子に乗りすぎた。ぶつかっただけでも斬られるって話じゃなかった?

「すまねぇな。大丈夫か?」

体を堅くしていると思いがけない言葉が返ってきた。

え?

顔を上げると男が一人、落とした大根を拾い、桜夜に手を差し出していた。

「あ…、すみませんでした」

桜夜は立ち上がると大根を受けとり謝る。

八百屋の主人も心配そうに見ていた。

「お桜夜ちゃん、平気かい?」

そう言うと着物に付いた土を払ってくれた。

「おじちゃん、ありがと」

そして男をきちんと見ると再び謝った。

「本当にすみませんでした。お怪我はありませんか?」

男は少し驚いた後、ケタケタと笑った。

「桜夜って言ったよな?尻餅ついたのはそっちだぜ。怪我があるとしたら桜夜だろ」

「あ…そっか」

「おかしな奴だな。俺は栄太郎だ。よろしくな」

「栄太郎さん?宜しくお願いします」

いきなり呼び捨てにされてるし…。でも、悪い人じゃないっぽい?

「ははっ。さんはいらねぇよ。そんな柄じゃない。堅っ苦しいのは苦手なんだ」

その後、すっかり話し込んでしまった桜夜。

何か友達ができた感じ。屯所の人達ももちろんよくしてくれるし大好きだけど、それとは違う感じかな。

「すっかり話し込んじまったな。買い物だったんだろ?悪かったな」

「あっ、そうだった。帰らなきゃ。またね、栄太郎」

「あぁ。またな、桜夜」

栄太郎に手を振ると急いで屯所に向かった。