円士郎と過ごす時間は楽しくて、もちろん彼が私に手を出してくることもなく、あっと言う間に夜明けが迫り──


去り際、

彼はふと思い出したように、

「さっきまで俺と一緒にいた男がいるんだが」

と言った。


「生き物の話なら、そいつとしても面白いかもしれねーな。今度連れてくるよ」

「一緒にいた奴がいるなら、そいつの所に泊めてもらえば良かったんじゃないのかね?」

「そいつは無理だな。それこそ女の所に行くって言ってたんでね」


私は肩をすくめた。


「なら、その男を連れて来るときは是非とも昼間にお願いしたいね」

私の切なるこの願いは、数日後、結局叶えられずに終わるのだが──わかった、とこのときの円士郎は無責任に笑って、


「あんた、武家の女だろ」


ズバリ口にした。


「──なんでそう思う?」

「わかるさ、そのくらい」

「できれば……他の者にはあまり言わないでくれたまえ」

「なんでだ?」


私はこの三年、町で知り合った人々や、虹庵や、そしてこの夜の円士郎と過ごした楽しく何物にも代え難い大切な時間を思った。



「浸っていたいからだよ」



この自由な生活は、愛おしい。





まるで夢の中にいるように──




「何のしがらみもない、この広い水の中に浸っていたいからだ」