兄のキスに、私はまだ応えたことがない。やり方がわからないし、私から兄にキスをしたこともない。

ただ、兄の好意に甘んじる。私も、兄が好きなんだろう。自分からは兄のように「好き」も「愛してる」も言えないから、キスをしてもらっているのだ。

私は天使だった。今は翼もなく、飛ぶこともできないのに籠へ入れられている。けれど、思った以上に籠の中は居心地がいいのだった。

唇が痺れて、感覚がなくなってしまうほどに。

「ねえお兄ちゃん」

いつの間にか少し酸欠になっていたらしい。視界がぼやける。呼吸が落ち着かない。私は、兄の頭を抱え込むように寄りかかり、しがみついていた。兄の手が、私の腰を緩く抱いている。微睡んでしまいそうだ。

ワックスをつけたことがないと言う兄の黒髪は、柔らかくなめらかな指通りだった。私はこの髪が、いやこの髪も好きだ。

兄はなんでも答えてくれる。私を天使からただの女の子に変えてしまう人なのだから、なんでも。

兄の肩にあごを乗せながら、囁いてみる。

「好きって、どういうことかな。好きの意味って、なんなのかな」

答えは、今じゃなくてもいい。

やっぱり、兄の髪の指通りは、とてもよかった。