「明日には帰らないといけないんですよ」


力の牧場へ向かうバスの中。


隣の席に座っているのは、専門学校の先生である新谷翼先生。


恩師でもあり、桃子ちゃんの恋の相手でもある。




「本当はもっとゆっくりしたかったんですけど」


残念そうな顔でそう言った翼先生は、俺が直に恋をしてしまった頃を思い出させた。



好きになるつもりがなくても、好きになってしまう。



その相手が教え子だとしても、止められない気持ちってあるんだよな。




「夏休みも忙しいんですね」


「そうですね。でも、今日と明日は休みが取れたので、良かったです」




直から聞いている限りでは、この翼先生は恋に不器用な奥手な男性、らしい。



……が、

会ってみるとちょっと印象が違う。




「まさか俺に声がかかるとは思わなかったんです。正直、悩んだんですが」



「翼先生は、卒業した生徒の引率ってことでの参加ですよね?」



俺がそんないじわるな質問をしたせいで、翼先生はどんどんキャラが変わっていく。




「え、まぁ。そうなんです。引率なんですよ。……というか、まぁ、そのはずなんですけど。いや、もちろんそうなんですけど」




クールな印象ではなく、お茶目でかわいい人だと思った。


恋に不器用だというわけでもなく、ちょっと慎重になっているだけ。


一歩踏み出すと、俺よりも積極的だったりして……