「……――あぁっ!!早坂先輩いなくなっちゃった!!」


帰宅する早坂先輩を目で追うのが、あたしの唯一の楽しみだったのに。 


小林が話し掛けてきたせいで見失ってしまった。



「佐和さん、早坂先輩のこと好きなんですか?」


すると、無言で日誌を書いていた小林が、少し膨れっ面のあたしに問い掛けた。
 

「別に……、好きなわけじゃないよ」


好きっていうか、憧れに近いかな。
 

だって、どんなに好きになっても、人気者の先輩と付き合える訳じゃないもん。


先輩を狙ってる女子生徒は校内に数え切れないくらいいる。 


無駄な努力はしない主義なの。


「ていうか、どうしてそんなこと聞くのよ?」


「佐和さんてああいうタイプの男が好きなのかなって思っただけです」


「あたしがってより大半の女の子はああいう少し悪いタイプの男に憧れるものなの」


あんたとは正反対のね。


黒ブチの牛乳ビンの底のようなぶ厚いメガネをかけて、制服のシャツを第一ボタンまでしっかりとめたガリ勉丸出しの小林。


ボキャブラリーもないし、いつだって無表情。


何度か笑顔で話しかけてみたけど、小林は一度だって笑い返してきたことはない。


頭がどんなに良くても、こんな男とは絶対に付き合いたくない!!