「星!お前お嬢親衛隊に付け狙われてるんだって?」

部室を出ようとした所で声を掛けられ、僕はうんざりと振り返った。

「先輩…誰から聞いたんですか?」
「誰からも何も、学校中に広まってるぞ?二年の東雲星がお嬢を振って親衛隊に付け狙われてるって」
「学校中?!…勘弁して下さいよー…」
「ははは、まあ頑張れよ」

職員室に行くらしい楽しそうな先輩に恨めしい視線を投げかけつつ、別れて独り下足場に向かう。
どうして、こんな事になったんだ?


僕は、良く知らない人とは交際なんて出来ないからとやんわり断っただけなのに、自分を知らないなんてしかも振るなんてと大泣きされて。
それからだ。お嬢親衛隊とやらに、ちょっかいを掛けられるようになったのは。

最初は陰口とか、通り縋りにぶつかられるとかその程度だったけど、最近はどんどんエスカレートしてきている気がする。
体育の授業中に偶然に見せかけて蹴られたり、突然殴られたり、鞄が荒らされたり。親衛隊とは名ばかりの報復集団だ。
こんな事が続くと僕も流石に少し、怖くなる。


独りで進む廊下は自分の足音だけが変に反響し、差し込んだ夕陽に赤く焼けてまるで血の様で妙に気味が悪かった。

赤は人の気持ちを高ぶらせ、時に感情に走らせる。
目に焼き付くようなその色に、僕は思わずきつく一度瞼を閉じた。

「…早く帰ろう。うん」

独り言ちて目を開け、足を早める。


ぱたぱたぱたぱた…。
 ぱたぱたぱたぱた…。


反響する足音にまるで今正に付け狙われているような気分になり、僕の足は既に駆け足に近い速さで進んでいた。
もうげた箱は目の前。
その瞬間、射るような鋭い視線を感じてびくっと立ち止まる。

しかし、辺りを見回しても真っ赤な廊下が有るばかりで。
足は床に縫い止められ、急激に脈拍が上がり今にも胸を突き破りそうだ。

身体中が心臓になってしまったみたいな錯覚に陥りながら、意を決し無理やり動かした足で今度は走り出した。
ガンガンと早鐘を打つ様に、鼓動が鼓膜の奥に木霊する。

今すぐここを出なければ。

何かに急かされるように辿り着いた下足場で、僕は徐に自分のげた箱を開ける。


その瞬間、顔面に衝撃が走った。