「ああ、藤森さんね」

大家さんは眉を寄せた。

「あのお宅も大変よね。それでなくても母ひとり子ひとりでしょ」

「本人も気にしてるようですか?」

「あたしは気にすることないって言ったんだけど…」

逆にトラブルが続いて申し訳ないぐらいだと大家さんは言った。

あたしはそれを聞いて安心した。

淑恵の心配は杞憂に終わりそうだ。


リカちゃんの幽霊話でアパートを追い出されることはあるまい。

「あら?」

大家さんが通りの向こうに目をやった。

「あれ、藤森さんだわ」

見ると自転車に乗った淑恵がこちらに向かって来ていた。

その表情は固くこわ張っていた。

淑恵はアパートに着くとものすごい勢いで部屋へ入っていった。

胸騒ぎを覚えたあたしは部屋から出てきた淑恵のもとへ駆け寄った。

「どうしたの淑恵!?」

「麗美…」

淑恵の顔は蒼白だった。

「理花が…理花が学校で倒れたって…」