「兄貴、ただいま」

「…あ、陽。お帰り」

「何してんだ?そんな所で」

「ん…夕陽が綺麗だったから、ちょっと見てた」

「へえ…帰ってくるときは気にしてなかったけど、こうして見ると綺麗だな…って、おわ!」

「な、何?!」

「びっくりした…今、床板のここん所思いっきり沈んだ…」

「え…母さん、よく毎日洗濯物干してて平気だな…」

「あぶねーな…飯ん時父ちゃんに言っとかないと」

「だな…いつ抜けてもおかしくないし」

「今抜けたら俺たち庭に真っ逆様だな」

「はは、大怪我間違いなしだ」

「ははは、だな。……………はー…」

「……どうかしたのか?」

「…や、夕焼けってじっくり見たら色んな色で出来てるんだなと思って」

「ああ、確かに…緋、赤、橙、黄、蒼、紫…他にも名前の分からない中間色が沢山混ざってる」

「この色合いってさ、もう二度と見られないんだよな」

「…そうだな…。…………」

「…?……兄貴…?」

「…なあ、陽…陽が僕を“兄ちゃん“って呼ばなくなったのって、いつからだっけ…?」

「…え……」

「陽が高校に入った時にはもう、兄貴って呼んでたし…いつからだっけ?」

「…それは…………」

「……………」

「……………」

「……………」

「……………」

「……………」

「…………忘れた」

「へ?」

「そんな前の事、もう忘れた。」

「な…そんなわ」

『星ー!陽ー!夕飯出来たから降りてらっしゃーい!』

「ほら、飯だってさ。俺先に行ってるからな?」

「あ、ちょ…っ…陽!」

「兄貴も早くなー」

「…陽!!……………………たく…嘘、下手すぎ」

『星ー!!あんたも早く降りてきなさーい!』

「はーい!!……はぁ……陽の口からちゃんと聞いてみたかったんだけどな………また、次の機会…かな」