「じゃ仕事がんばってね、麗美」

立ち去ろうとする淑恵をあたしは呼び止めた。

「淑恵、あんた何か隠してない?」

『つい…』と口ごもった先ほどの態度が気になって仕方なかった。

「悩みがあるのなら連絡して。いつでも聞くわ」

あたしは携帯番号とアドレス入りの名刺を渡した。

「ありがとう」

名刺を受けとりながら、淑恵はつぶやくように言った。

「麗美は全然かわってないね。昔のまんまだ。それに比べてあたしは…」

その口調はどこか儚げでさびしげに感じた。

「また連絡するね、じゃ…」

背を向けた淑恵はその場から足早に立ち去った。

その背中を見送るあたしの胸の奥には、彼女をこのまま帰らせていいのかと、不安な気持ちが広がりつつあった。

淑恵を追いかけようとした丁度その時。

「あの、すいません」

何者かがあたしを呼び止めた。

振り向くとそこには背広姿の男性が立っていた。