グイグイと引き寄せられて、カッカッと不協和音を立てるヒール音。



あっという間に社に引き戻された身体は、途端に強張っていく…。



居合わせる人々の視線が、怖くて堪らないほど・・・





「社長、お帰りなさいませ」


「ありがとう」


強引に繋いだ手とは裏腹に、平素と変わらない態度で挨拶をする拓海。





“手を繋いで帰社するなんて、ただのイヤミじゃん”



“ホント…玉の輿に乗ったって、誇示したいんじゃない?”




「・・・っ」


ヒソヒソと聞こえる声は、俯き加減の視線をさらに下げさせていく。



チガウのに…、そう思っていようが、反論出来るハズもなくて。



ギュッと固く繋がれたままの手だけが唯一、気を保たせるモノだった…。





乗り込んだエレベーター内でも、何も語ろうとはしない拓海。



漂わせる空気の重さが、口に出来ない謝罪の言葉を呑み込ませていた。




エレベーターが開くと、さらに強固な力で手を引かれて歩を進めていくと。




バンッ――

社長室の重厚な扉が、やけに音を立てて開かれた。