どきりとして横を向いたが、暗くて真紀の表情はわからない。

「何言ってんの」

「唇だけじゃなくてさ。気持ちも、体も、全部持っていってくれたらいいのになって、思っただけ」

「あー……えっと……」

「いいのいいの。ただの現実逃避だから、気にしないで。ありがとね、チューしてくれて」

 手が離れた。

 真紀がベッドから降りたのが音と空気の動きでわかった。

 ちょっとだけ、寂しい。

「いいこと教えておいてあげるね」

「なに?」

「女はね、この年になると最終的に、自分がその人とエッチできるかどうかで彼氏を選ぶんだよ」

「いやいや、嘘だろ」

「ホントだって」

「まさか。真紀だけじゃね」

 クスッという笑い声と、タオルケットをかぶり枕に頭を鎮める音が聞こえた。

「良平。安全な男のままじゃ、彼女なんてできないよ」

 安全な男。

 やけに心に響いて、反論できなかった。

「おやすみ」

「おやすみ」

 俺もベッドに横になる。

 案の定暫く寝付けなかった。