予想だにしなかった言葉に、俺は固まった。

「誰もいないのにフローリングがギシッとかいうじゃない? ここ、それがよく響いて怖いの」

 イエスともノーとも言ってないのに、真紀は自分のタオルケットと枕を持って俺のベッドに上がってきた。

 俺は条件反射的に壁際へ寄る。

 これじゃイエスと言っているようなものだ。

 確立されていたはずのボーダーラインが、少しだけ揺らぐ。

 生真面目なはずの俺に、微かな下心が芽生える。

 それを摘み上げるように、言った。

「ビビリ女」

 二人とも仰向けの状態。

 壁のほうを向くのは不自然だし、かといって真紀のほうを向くのも怖い。

 寝心地の悪い体勢だが、耐える。

「もう、何とでも言いなよ」

 そう言って真紀は俺に背中を向けた。

 俺は仰向けのまま今更冷静さを取り戻す。

 俺が茣蓙に降りるという選択肢もあったはずだ。

 添い寝なんてキケンなこと、する必要もなかったんだ。

 それでも俺はベッドからは降りず、真紀の寝息が聞こえるまで仰向けの体勢をキープした。

 危ぶまれた俺たちのボーダーライン。

 しかしそれを越えてしまうことはないまま、ただ常に体が触れ合うことにハラハラした俺は、外が明るくなり出すまで眠れなかった。

 眠る直前、日の光がやや射してきたところにハンズの買い物袋が見えた。

 せっかくオシャレなランプを買ったのに、開封されずに箱と袋に閉じ込められたままだ。

 そういえば今日、腕を組んで歩いたっけ。

 眠っている真紀の腕に腕で触れると、少しだけ冷たかった。