かさかさかさ。
マントを翻し進む足取りに絡むように乾いた音が付きまとう。
足元には濃淡の違う赤が広がり、頭上の木々も赤や黄ばかりを纏っている。

空も西に傾いた太陽に染められ、景色はさながら炎に包まれたかのようだ。

少し進むと、視界が開ける。
木々に囲まれた小広い場所へ踏み入れ、私は手近な木の根元に小脇に抱えていた薪を下ろした。

空間の中央では、先程私が魔法で灯した焚き火が燃えている。

パチパチとはぜる音が響き、赤い火と煙は今の所消える気配はない。
薪も思いの外拾うことが出来、これなら野宿の最中に火が消えてしまう事もないだろう。

「さて…そろそろ良いかしらね」

弛んでしまいそうな頬を何とか留め、腰に下げたレイピアを抜く。
切っ先でガサガサと焚き火をかき混ぜると、こつんとした感触にぶつかった。
それをそのままレイピアでぷすりと刺すと、すんなりと通るのが分かる。

「よっと」

焚き火からレイピアを持ち上げるとその先には、紅の皮を纏う細長い芋が二つ突き刺さっていた。
その表面は程よく焼けて所々こんがりと色付いている。

満足げな笑みを抑えられないまま置いておいた荷物の脇に座り、マントの端で芋を掴んでレイピアから引き抜く。
布越しに持っても焼きたてのそれは指先を赤くする程には熱くて。

「いただきまーす」

小さめの方の芋をマントで掴み半分に割ると甘い香りが鼻腔を擽り、黄金色のほくほくとした色彩が食欲を煽った。
それに逆らわず、ふぅふぅと息を吹きかけ一口目を頬張る。

『あ、ずるいぞ!私の分は?!』
「ちゃんと焼いてあるわよ!」

耳の奥に響いた声に当然のように笑み混じりで返して顔を上げ、私は愕然とした。
周りには当然、誰も居ない。

「…何やってるんだろ、私」

一人で食べきれる筈もない二つ目の芋を見つめ零れた声音は、自分でも驚く位に静かだった。

地面に置いた荷物には私の物ではない剣。

それを視界の隅に映しても、もう声は聞こえない。
こんな形で、ようやく独りを実感するなんて。私らしいと言えば私らしいのかもしれないけれど。

木々の葉と夕陽と焚き火に赤く染められながら再び芋を頬張っても。
どうしてだろう。

塩っぱい味しか、しなかった。