ネクタイを締めて



部屋を出ると



居間のテーブルに

トーストとサラダを並べる

お兄ちゃんと目が合った



「おはよう、蕾」



いつも通りの優しい笑顔に
ホッとして



「おはよう、お兄ちゃん」



挨拶を返すと



「蕾」


お兄ちゃんは
ゆっくり私の前に立って



――――――――シュル……


私の胸元に手を伸ばし
ネクタイを引っ張り外した



ドキン………


「お兄ちゃん?」


お兄ちゃんは目を伏せて


「ダメだよ、蕾」


「え?」


「毎朝、ぼくが してあげる約束だよ?」

手にした水色のネクタイを
私の前に 掲げた



「でも、私…………」


「ほら」


私にアゴを少し上げるように言って



お兄ちゃんはネクタイを締め直した



胸が ざわざわする



理由はわかってる



数日前に聞いた電話の内容だ



夜、こっそり家を抜け出そうとした時に


お兄ちゃんの部屋から聞こえた話