ふとにユゼの顔が曇る。
「正直なところ、この館の方が問題なのだが…」
確かに、ユゼやルーが留守の間に、何かあっても、私にはどうしようもない。
…何も、出来ないのだ。
「出来る限り結界を強めておくが、それでも何かあったら家妖精が案内するように逃げろ」
「何もないと思うんだけどな。だけど、万が一ってこともあるから」
二人は私のことを心配してくれているみたいだ。
「…分かったわ、気をつける。それで、どのくらいで帰ってくるの?」
家妖精と留守番となると、少し心細い。
なるべく早く帰って来て欲しかった。
そんな我が儘を言えるはずがなく、私はぐっと堪える。
「最低でもニ週間はかかるかな。張りなおしの必要なところが多ければ、それ以上。大仕事だから」
最低でも二週間…。
長い。
「何かあった時はこいつがひとっ飛びすればすぐに帰ってこれるわけだし、そんな顔するなって」
ルーが困ったように苦笑した。顔に出ていたらしい。
「連れて行きたいけど、道のりを考えるとちょっとな。
ハーゼオンに護衛を頼めれば良かったんだが、あいつも忙しいだろうし。だからと言って紫焔もなぁ…。手数が少ないと、こういう時に困るな、吸血鬼」
「あの、私なら一人でも大丈夫だから、そんなに気にしなくてもいいわ。それより、二人こそ気をつけてね」
二人の足枷になっている自分が、申し訳ない気持ちになってきた。肩身が狭い。
私はきゅっと小さくなった。
「気にするな」
静かな声が割り込んで来る。落ち着いた、ユゼの声だ。
「でも…」
「おじが姪っ子を守るのも、弟が姉を守るのも、当たり前のことだろう」
言われた意味が分からず、私は目を瞬く。そして、次の瞬間ユゼの言わんとすることを理解した。
「はぁ?おじ、姉?」
理解をしていないルーが眉間に皺を寄せている。そしてユゼと私を交互に見た。
「な、なんでもないのっ」
何故か、ルーに説明するのが気恥ずかしくて、私は大きく首を振る。
初めにそう言ったのは私の方だったが、何かを根本的に間違えてしまっているような気がした。