「修斗」


その日、帰りのバスに乗る前に私は修斗を捕まえた。


「なんだよ?」


「足、大丈夫?」


「ああ。全然平気」


「でも、ちゃんと病院行ってね」


「大げさなんだよ」


そう言って私の鼻をちょこんとつまむと、修斗はバスの中に消えていった。


「大げさなんかじゃないよ」


私もバスの中に入る。


だって私たちのいるスタンドにあいさつに来たとき、足引きずってなかった?


少しだけ歩きにくそうにしてたのは、私の気のせい?


バスの中は、選手が首からぶら下げてる金のメダルで輝いてるように見えた。


でも実際は、黒い闇が近づいてて。


これがこれからの、長い険しい道のりの始まりだったんだ。