男はジーンズのお尻のポケットから財布を取り出した。


そして名刺を差し出した。


【〇〇産業

    牧野 千早人】



(まきの…ち…ち…)



「まきのちさとです。

1番下に携帯番号書いてあるから、何かあったら連絡下さい!」



「……は、はぁ…はい…」


私は名刺から目を逸らさず曖昧な返事をした。




(だ、代表取締役?!)

(幾つなんだ?この人)

(社長の息子か?)



グルグルと思考が回転し、疑問符が飛び交う…



「お名前、教えて頂けますか?」


その声にハッとして顔を上げた。


「…あ、太田…みなぎです」


「みなぎさん?変わってますね。
まぁ…僕もですけど。

どんな字を書くんですか?」



「美しい、に凪です。風が止まる凪…

それで美凪です」



「へぇ〜!素敵な名前ですね」



「説明するの大変だから…嫌いなんです」


口を尖らせ、拗ねたように言う。



「ピッタリですよ!美しい凪…」


私は少しはにかんでニッコリ笑った。



そして千早人の笑うと目が線になる顔をずっと見ていた。





今も覚えている…


千早人の背中越しに

オレンジ色に輝く太陽が

海にその色を映していたのを・・・・・