自分の眺める景色からの彼女は小さな指で永遠に促すかのように音を奏でているのが、何だが悲しくなって、僕は彼女に言葉をかけていく。
「雪菜は白落をよく弾けるね」と。
雪菜はこちらをみる。
息をつく。
「白落は本当に難しいし、私も白落を弾けているわけじゃないから」
「雪菜に教えて貰ったけど、雪菜とは違って僕は全然だったね。ちっとも、自分の思っている音が出なかったから」
「そうじゃい。水棹は自分で思っているほど下手じゃないのよ。最初は上手かった」
「でも、続かなければ意味がない」
「そうね」
「やめようか」
「そうね」
村治雪菜は僕の方に淡い目で見つめる。真っ白な弦楽器の白落を奏でない。手を休める。名残があるのか、楽器にを淡い見線で見つめているのだ。
弦楽器、白落。この町に古くからの伝統的な楽器の白落で、コントラバスのような白い胴体と、地方で作られた生糸、弦が特徴だった。
「夜だよ」
「わかっているよ」
「なら――」
わかっている。
雪菜は頑固だ。
なら、言わない方がいい。
言葉を切り、四角い窓からの空を眺めていくと、一面を雪雲で空を覆い隠していた。
これは雪を降らす雲だな、僕は雪菜の顔を眺めると、未だに白落を見つめている様子が伺えていたのだ。
それから、僕は溜息を吐いて、部屋に掛かっている時計を眺めていく。壁に立てかけられている掛時計は真夜中を指しているし、眠気もかなりあったから、雪菜も相当眠たいのだろう。それにこれから、雪が降りそうな雲もあることだしな、と、教室で考える。
今、誰もいない教室。彼女が奏でていた白落の音が止むと、時計の音だけが建物の中を満たしているので、この場所には誰もいないのだ、と僕は錯覚を覚えた。
実質、教師はこの建物内のどこかにいるのだろうけれど、この小さな教室には誰もいないのだ。むろん、暖房もつけていない教室は、氷のように冷たくて肌寒いので身震いを感じさせられていた。
「そろそろ帰らない? もう真夜中だから」
「うん、そうだね」
「もういい」
「うん」
「いい?」
「う、ん」
同じ言葉を繰り返す。