外は幸い雪が止んでいた。

去っていく三人をルーと見送る。


「なんだか嵐がきたみたいだったわ」


館へ戻るとルーが暖かいお茶を入れてくれた。今日は薔薇の香りがする。

色々なことがあったせいか、少し疲れた心に甘い香りが染み渡った。


「…あのな、花嫁」


なぜかルーは深刻そうな顔をしている。

茶の双眸が陰ったまま私を映し出していた。


「どうしたの…?」

「…あいつと俺は似た者同士なんだ」


あいつ、というのはハーゼオンのことだろうか。


「確かにあの人とルーはなんとなく似てるけど…顔とか」


そういうことが言いたいわけではないらしい。ルーが小さく首を振った。


「俺とあいつの出身は、ここよりもっと南の、雪なんて一年に数回しか降らない、黒刺(こくし)という奴の領域の国なんだ」


黒、といえばハーゼオンが噛まれたと言っていた吸血鬼だ。

私が聞くと、ルーは静かに頷く。


「黒刺は赤赦の母親を気に入り、彼女自身の意志で自分の贄になるよう仕向けた。……贄、つまり俺たちが花嫁と呼んでる立場のことな」


昔話に、私は黙って相槌を打った。


「黒刺がしたのは、彼女の幼い息子を人質に取ることだった。贄になれば、息子には手を出さない、と。それで、赤赦の母親は黒の贄となったらしい。

だけど、息子…ハーゼオンが二十になった時、黒刺は母親の目の前で、あいつを噛んだ」

「酷い…」

「息子の成長を唯一の生きる希望にしていた母親の絶望は深く、吸血鬼になった後のあいつが何を話し掛けても、まったく反応しなくなってしまったらしい」


私の感想を遮るようにルーは話を続けていく。


「恨みと恨みと恨みで、ハーゼオンは同族喰いを繰り返した。そして、気付けば直系ながら赤と呼ばれるほどの地位になっていた。

…これが、あいつの望まず吸血鬼になってしまった奴の面倒を見ている理由だ。ついでに特定の花嫁を持たない理由でもある」


言い終わったルーは自分も紅茶を口に含み、喉を潤した。