どうぞ、というと扉は開いた。

「失礼します。うわっ、くさいし、煙たい。」

「おお、イナックスか。」

油川は灰皿で火をもみ消し、真っ白な煙をイナックス目がけてぷうっと噴き出した。


「先輩、部屋は禁煙ですよ。」

イナックスとは彼のひとつ後輩で、本名を稲田という。

彼も独身であるので、この銘湯寮に住んでいる。

性格は穏やかでつぶらな瞳をしており、メガネが良く似合う好青年。

彼は下の部屋から怪しげな音がするので心配になって降りて来たのである。


「先輩は一体何をされてるのですか。上の階にもゴリゴリと音が響いてきますよ。」

「ごみん。今我を忘れて、作業中だった。こいつをすり潰していたのだ。」

そういって油川はすり鉢の中身を見せる。

中には赤い粉末が入っている。

「先輩、これってもしかしてレジスターじゃないですか?」


「その通り、よくわかったね。」


「ああ、さては掘削したシステム資源を帳簿に付けずに持ち帰ってたんでしょう!何してるんですか。規則違反じゃないですか。」


「まあ、少量だからばれやしないさ。しかし君、このことは内緒だぞ。実はこれ、MIXREGだ。」

「ミックスレジ?あまり、聞いたことないな。変異させたのですか?」


イナックスは資源の持ち帰りは規則違反であると知りながら好奇心を押さえ切れず、質問した。