「最低だ……」


涙で濡れた彼女の顔が、ふいに浮かんだ。


おびえるように僕を見る目。

何か言いかけた唇。


どうして一度でも、彼女の話を聞いてあげなかったんだろう。

どうして、本当のことに気づかなかったんだろう。


ともに過ごした9ヶ月の日々で、

僕は、
桜子がどういう女の子なのか分かっていたはずなのに。


ミドリが男に尽くした何倍もの強さで、

桜子は僕のためを想って、犠牲になってくれていたのに……。



「……コバ」


大きく息を吐いて呼吸を整え、僕は言った。


「正直に話してくれて、助かったよ」


コバはばつの悪そうな顔で目をそらした。


立ち上がって伝票をつかみ、僕は足早に歩き出す。



……桜子がいる、
あの家に帰ろう。


きっと彼女は僕を待っている。



「店長!」


自動ドアの前に立ったとき、背後からコバの声がした。


「……ほんとにすみませんでした!」

「……」


ふりむかず、ひらひらと手を振って、僕は店を出る。




雨はいつのまにか止んでいた。



湿ったアルファルトの匂いが、

僕の足取りを速めた。