気付けば、私は吸血鬼の指先を一心に舐めていた。

正確には、その傷から流れた血の一滴を。


私は、何を……。


我に返って身を引いた。

飢えが満たされていく。同時に、私が私ではなくなってしまったかのようだ。


「もっと欲しいのだろう」


低い囁きが甘い。思考が痺れていく。

頷きたくなる体を両手でぎゅっと抱きしめた。

私の意志を無視して、この体はこの男に支配されているのだという恐怖。


感謝、していたのに。
馬鹿な私の願いを聞いて、レイシャを助けてくれたことを。

それら、全てが消えていく。



「…私、あなたを許さないわ」


顔をあげて吸血鬼を睨み付けた。涙をぐっと噛み殺す。


「絶対に」



「好きにするがいい」


吸血鬼は私を上向かせ、唇を指先で拭った。

人よりも低い体温が唇を冷やす。

逃たいのに、逃げられる場所はなかった。


人の道から外れてしまった、この身には。