そこにザックが入って来た。


「おう、お前らご苦労さん。
お姫様と二人っきりで話がしてぇ。出てってもらっていいか?」


部屋の中にいた盗賊団の人間は無言で皆出て行った。
しかしアリスとハニーは残る。


「出てってくれって言ったの、聞こえなかったか?」


「これまで貴様の言いなりになってきたのだ、一つぐらい我儘を聞いてもらってもいいのではないか?
私がいなければ追っ手から逃げられなかったのも、この姫君を誘拐することすらできなかったことも理解しているだろう。」


するとザックは観念した様子で両手を挙げた。


「分かったよ。好きにしやがれ。」


アリスはその言葉を聞いてほっと胸を撫で下ろした。

ずっと気になっていたのだ。
ザックが何故リル姫をさらうのか、何のために、何を理由に。

二人の会話を聞けば、きっと何かわかると思えた。


「気分はどうだい、お姫様。」


ザックはリル姫の口を覆う布を外した。


「最悪だ。」


その言葉を聞いて笑うザック。
そしてリル姫と目線を合わせるように少し屈む。

アリスとハニーはその様子をただ見ていた。


「俺のこと覚えてないか?」


「貴様のような下衆に見覚えは無い。」


しかしリル姫はザックと目を合わせようともしない。


「じゃあこれで、どうかな。」


ザックは頭に巻いていたターバンを外した。
ぱさりと髪の毛が重力に従う。

リル姫はそれを見て目を見開いた。


「リル、覚えてるだろ?鍛冶屋の息子―――。」


「―――ザック・コルデシー・・・。」


ザックはその言葉を聞き、微笑んだ。