驚いてふり返った僕の顔を、彼女は行儀のいい微笑みで見つめる。


「こないだは迷惑かけちゃったみたいで、ごめんなさい」


「いや、そんなことは全然気にしなくていいよ。
あのあと無事に帰れた?」


「ええ、おかげ様で。
コバ君がしっかり家まで送り届けてくれたから」


「そう」


なるべく軽い口調で言った。


本当は少しだけ、

どうしてあんなに酔いつぶれるまで飲んでしまったのか、
理由を聞きたかったけれど。


そんな僕の内心を知ってか知らずか、ミドリが言った。


「今日、終わってから空いてる?」

「え?」

「飲みに行かない?こないだのお礼がしたいの」


僕が少し迷っていると、
彼女は小さな紙切れを僕の手のひらに握らせた。


「私んちの電話番号。お仕事終わったら電話して」


そう言い残し、ミドリは軽やかな仕草できびすを返す。


「マユミに会っていかなくていいのか?」

「ええ。大丈夫」


ふりむかずに答えて、彼女は繁華街へと消えていった。