「こっちよ!」

南禅寺の端…目立たないところに、水路閣という建造物があった。

よくサスペンスドラマで、バックに使かわれる煉瓦造りのモダンな建物は、南禅寺という寺院の中にあるには、不似合いであるが、

木々の間に、緑が染み付いた橋のような建造物を見た瞬間、人々は異国情緒に包まれてしまう。

九鬼は、水路閣の下をくぐり抜けると、石段をかけ登った。

水路閣は琵琶湖からの疎水を運んでおり、

京都の川はすべて南に流れているのに、この上だけは北へと流れている。

まっすぐ上がると、南禅院に入るが、九鬼はさらに右に曲がると、一気に水路の上に出た。

静かな空間に、水音だけが響いていた。

深さは二メートル以上はあり、その下を水が激しく流れており、左手は山、右側は下から生える木々でわからないが、水路の側面になっており、普通に落ちる。

山手からも、右からも生えた木々と伸びた枝が、天然のアーチとなり、奥を見えなくしていた。

昼間でも薄暗くひんやりした空間は、京都でも異世界を思わせた。

一般の観光客は、奥まで行く人は少ない。

昔は、なかなか通り抜けられなかったが、今は抜け道がある。

関西電力の発電用水路の建物があり、広大な溜め池にぶち当たるのだ。

九鬼は水路の上を走り出した。

山側ではなく、右手の道を。

数センチしかないとはいえ、地元の人は犬の散歩に使う人もいる。

左右の道を挟む…水路の幅は一メートル以上はある。

数メートルの間隔で、鉄の細い板が橋のようにかかっている。

人のジャンプ力では、その橋を飛びながら、渡るには少し無理があるだろう。

木々のアーチの下…水音だけが響く静寂の空間を走る九鬼の前に、突然誰かが現れた。

行く手を阻むのは、加奈子だ。

その手には、乙女ケースが。

「装着」

どどめ色の光が、木々のアーチからの木漏れ日に照らされて、乱反射した。

九鬼は、山側にジャンプすると、岩肌に早奈英をもたれさせ、再び水路を飛び越え、右手に着地した。

「九鬼!」

そして、乙女どどめ色に変身した加奈子がかかってくるのを、右手を突きだして、待ち構えた。