その一連の動作が、まるでスローモーションのように動く。



あたしは声を出すことも出来ず、固唾を呑んで要を見つめる事しかできなくて。



どうしていいかわからない、あたし。

まるで何かの呪縛にかかってしまったように動けない。




だんだん距離をつめる要の顔――――……
 
その要の唇がわずかに動く。


あたしを見つめるその瞳はなぜか切なげで。
何かを伝えようともしてる。


え?……なに?



あたしどうしちゃったの……。

要から目が逸らせない。

瞬きも許してもらえない、そんな感覚に目眩がした。



前髪が触れる距離。 鼻が触れそうな距離。

伏し目がちの要から、ほんの少しのためらいを感じた。







そして……




唇に柔らかな感触―――


あたしを包む甘い香り――……
初めて要の部屋に入った時、あたしを包んだあの香りだ。

甘くて、ちょっとだけスパイスがきいた……
まるで苺みたいだ。







「…………」





要はそっと唇を離すと、放心状態で瞬きすらしないあたしの顔を覗き込んだ。




「お前見てると、いじめたくなる」

「……」



そう言うと、要は悪戯に微笑んだ。



なな……なんだそれ!



キスをする前の儚げな表情は消えていて。

あたしは言い返せずに、開いた口が塞がらない!



そんなあたしを、要は面白そうに眺めていた。