誰も居ない屋上まで走った。
たくさんの人とすれ違って、「有名人」って言う要の手を引いて走ってるあたし。

その誰もがあたしと要を見てた。

だけど、そんな事よりなにより。

あたしは、旬に誤解されてるんじゃないかって。
すごく不安だったの。



はぁ……はぁ……はぁ……



わき目もふらず走ってきたから、苦しくて死んじゃいそう。
乱れてる息をなんとか整えながら、あたしは振り返った。



「どーゆうつもりよ?」



……む。

勢いよく振り返ったあたしを見下ろす要は、今まで走ってきたのが嘘みたいに涼しげな表情で、首をかしげた。



「いや、だから今日の事……」

「だからって!」



要の言葉を遮るように、大きな声で要に詰め寄ったあたしはあることに気づいた。
「なんだよ?」と眉間にシワを寄せた要。
あたし、さっきからずっと要の手を掴んでたままだったんだ。

きゃああっ。

最悪、最悪!



パッ



慌てて繋いでいた手を離す。
そんなあたしを見て、要はちょっとだけ不機嫌そうに小さな溜息をついた。

ううぅ。
こんなヤツに、赤くなってどうすんのよ。

あたしは、自分の顔が今真っ赤なのがすごく嫌だった。


「……」

「……」


要にあたってもしょうがないってわかってる。

でもクラスを訪ねて来る事ないでしょ?


「………あたし、居候の事、内緒にしてたいの。
だから、学校では他人のふりしてほしい。 ……お願い」


「……」


うつ向いて話すあたしを見て要は何か言いたそう口を開いたけど、そのままフェンス越しにグランドに視線を落とした。



「わかった」



そして、要はそれだけ言って、その後は何も言わなかった。