「俺のことはいいから、バイト頑張ってきな。帰ってきたら両腕で思いっきり抱きしめてやるからな」


 私の顔を覗き込んでニカッと満足そうに「かーわい」と、笑う雷斗くん。その笑みの理由が痛いほどよく分かってしまう。だって、私の顔は鏡で確認しなくても分かるくらい耳まで真っ赤に染まっていると思うから。


(顔が熱くて焼けちゃそうですっ)


「じゃあ、バイト頑張れよ」


「はいっ! 雷斗くんも病院頑張ってください!」


 クシャっとした笑顔で「病院頑張るってなんだそれ」と言いながら目先に止まっていたタクシーに雷斗くんは乗り込んだ。いつのまにかタクシーを呼んでいたなんて……さ、さすがです。雷斗くんはやっぱりお金持ちなのでしょうか? 本当の彼女になったとはいえ、まだまだ彼のことは知らないことが多すぎる。


(雷斗くんの腕が治ることはいいことなんですから、しょんぼりしちゃダメですよね!)


 不安だけど、寂しいけれど、切ないけれど、しょうがない。腹をくくっていつか雷斗くんから同居は終わりと話されるその日を待つしか無いのだ。