「日に日に調子もよくなってるんだ。全部マリーのおかげだ」

「あたしは、何にも……」



何にも、してないのに。

そう思うけど、リリーさんにとってあたしはそれほど大きな存在なんだと思うと、少しだけホッとした。



「ここで待ち合わせしているんだ」



そう言ったヘンリーさんに通されたのは、施設の中庭。

花や木々が植えられ、自然に囲まれた素敵な中庭。

そこの中心にある噴水の前に、彼女はいた。



目に入る、後ろ姿。

車いすに乗った、ピンと伸びた背筋。風に揺れる栗色のまっすぐ伸びた髪。

ドクドクと、心臓が忙しなく動き出す。



あれが、あたしのお母さん――。



「リリー」



ヘンリーさんの声に、ゆっくり振り向く。

すぐに目が合って、彼女は微笑んだ。



「真梨ちゃん……」



鈴のように綺麗な声があたしの名を紡ぐ。

あたしは驚きで声が出なかった。