痩せていた身体は細身のままだが、それでも騎士としての訓練に励んでいたため、あの頃とは比べものにならないくらい鍛えられている。それもセシリアの手料理のお陰だと、彼は感謝を示してくれた。
 背も高くなり、漆黒の黒髪は艶やかさを増して、まだ十五歳だというのに色気すら感じてしまう。
 はっきり言って、直視できないレベルのイケメンなのだ。
 誰にも屈せず、高潔な精神は昔のまま。
 でも、やはり幼少時に受けたと思われる虐待のせいか、他人に対して距離を置くところがある。同じように公爵家で働く使用人たちや、ブランジーニ公爵直属の騎士仲間にはまったく心を許さず、頑な態度をとっていた。
 でも、セシリアの前では今のように無防備な笑顔を見せてくれる。
 五年かけて、ふたりで築いてきた絆のお陰だ。
(恐ろしいほどの破壊力なのよね、あの笑顔は……)
 たまに同席していた侍女が被弾すると、そのあとが大変だった。
「何を思い悩んでいる? お前の望みなら、俺がすべて叶えてやると言ったはずだ」
 心配を隠そうともせず、彼はそう言ってセシリアに手を差し伸べた。