そう思ったときに、ふと思い浮かぶ記憶があった。
 信じていた家族から裏切られ、絶望したセシリアは、誰も信じられなくなる。やがて、使用人や学園の同級生にも高慢に振る舞うようになっていく。
 そうして過ごしていた十八歳のとき、その身分と魔力の高さから、王太子の婚約者に選ばれた。
 本当は心の底から愛を切望していたセシリアは、近い将来、家族になる彼に愛を求めるようになる。
 だが、王太子は婚約者となったセシリアを愛さなかった。
 彼が愛したのは、身分は低いけれど明るくて健気な男爵令嬢。
 今度こそ愛が得られると信じていたセシリアは、それを受け入れることができず、とうとうその男爵令嬢を手にかけてしまう――。
(……え、この記憶は何?)
 困惑して、首を振る。
 突然、頭の中に浮かんできた記憶は、まるで自分のことのように思い出せる。
 もしかしたらこれも、前世の記憶が蘇らなかったら辿っていた未来なのだろうか。
 あの、十歳の誕生日に魔力を暴走させて人を傷つけてしまったかもしれなかった日のように。
(これは……。控えめに言っても身の破滅なのでは……)