黒革の手袋に包まれた手のひらはされるがままで握り返してはくれない。けれど気にせずに、そのまま手を引いて、庭園の中でも私の一番のお気に入りの場所へと向かう。

 エルダーアップルは林檎が魔力を得て妖精植物として進化した種だ。食べるだけでも魔力を高めたり、生命力や免疫力をぐんと上げてくれたり、美肌効果があったりする。
 希少価値の高い品種で、この世界では『万能薬』や『すべての魔法薬のもと』と呼ばれるほど高度な魔法薬作りに欠かせない。

 途中、こちらへやってきた使用人からシェフが腕を振るった料理とドリンクを受け取って、アルトバロンにも「一緒に食べましょう」と勧める。
 まだ八歳だというのに専属従者として仕えてくれるアルトバロンとは、堅苦しい礼儀を抜きにして親睦を深めたかった。

「気を失ったせいでお昼を食べ損ねたから、お腹ぺこぺこになっちゃった。アルトはどれくらい食べられそう?」