気付かれた!
そう思ったときにはすでに手遅れだった。

巨体を投げるようにして走るヂチキ。
何を喋っているのかはわからないが、“見つけたぞ”というようなことを言っているように思えた。


「アリス嬢!私の目の奥を見てください!」


肩をがっしりと摑まれ、アリスはハッとした。
ルビー色の瞳がじっとアリスを見ている。

強く、そして熱く。


「いいですか、あちらを見てはなりません。
意識をこちらに注いでください!アリス嬢の心を私の瞳に埋めるのです!」


アリスは言われたとおりハニーの瞳を見つめた。
意識をそちらへ向ける。

ヂチキの足音が響く。

それが段々と、段々と、徐々に、遠のいていく―――。


「その調子です、アリス嬢。」


すると足元に鈍い光を感じた。

ハニーとアリスを囲むように大きな円が出来上がり、そこに光の文字が浮かび上がる。
それは見たことも無いような文字だった。
文字と判別していいのかもわからない。

光が一層強くなった瞬間、まるで地下に吸い込まれるかのように地面が消えていく。


「恐れることはありません。ご心配をなさらずに。」


そう言ってハニーはアリスを強く抱きしめた。
アリスもぐっと強くハニーの服を握り締める。

円の淵が下に向かって消えていく。

それが段々と二人に迫ってくる。


「一足遅かったな、けだものめ。
貴様がアリス嬢に触れるなぞ百年早いわ。」


捨て台詞のように吐き捨てて、二人はぽっかりと空いた穴に吸い込まれていった。



アリスの意識の視界に、ヂチキの物凄い形相だけが残った。

それだけを残しアリスは意識を失った。