「わっ!ちょっと、危ないでしょ!」

飛びつかれて体のバランスを崩しそうになったため、慌てて日向くんから離れて腰に手を当て、怒ってます感を出す。すると、日向くんは「ごめん……」と言いながら謝ってくれた。しょんぼりして、本当に叱られた犬みたいだ。

「……次からは気を付けてね」

しょんぼりした日向くんをそのままにしておけず、頭をそっと撫でてあげる。丁寧に手入れがされた髪はサラサラで、ずっと撫でていたい気持ちになってしまうんだ。

「えへへ、ありがとう」

日向くんはニコリと笑う。その時、授業五分前を告げる予鈴がなり、私は「急がなきゃ!」と廊下に出る。その時、日向くんが後ろで何か呟いたような気がした。

「日向くん、何か言った?」

振り返って訊ねると、日向くんは何故かどこか切なげな笑みを浮かべている。その顔は横に揺れた。

「何もないよ」

「そう?じゃあ、調理実習頑張ってくるね!」

この時、日向くんが呟いていたのは「男に可愛いエプロン姿見せるんだよね。見るの、俺だけでいいのに」という嫉妬だった。