『その後、変わり果てた姿の文子に会ったよ。
私もあいつもぽかんとしてた。
昨日まで動き回ってたあの子を知ってるのに、「はい、こうなりました」って白いボロボロの物体出されて、「はいそうですか」って信じられるはずないじゃない。
私たちにはそんなもの、まったくリアルじゃなかった。

親族や知人がどんどん骨を壺に移動させて、残るは私と嘉人だけになった。

二人で一つの骨を箸でつかむんだけど、あいつはいつまでたっても箸をとろうとしないの。
それで、何を思ったのか、手で骨をつかんで、自分の口に入れて飲み込もうとした。
数人がかりで吐き出させたけど‥。

自分の身がどうなるかよりも、どうしたら文子に近付けるかばかり考えてたみたいだった。

唇‥血だらけにして、あの日初めてあいつは声あげて泣いたんだ。』



私は、母の話の間に鼻をすする音が交じるのに気付いていた。


だから、なるべく母の顔を見ないようにした。

見たら、私は最後まで聞く前に、今の平静を保っていられなくなると思った。





『‥一緒に逝かせてくれ、俺も焼いてくれって、私の足にしがみついて訴えるのよ‥
もう、私まで気が狂いそうだった。


とにかく、私はあいつの頬をたたいて、文子の遺言を繰り返し聞かせた。
文子の言葉なら、あいつは裏切れないと思ったから。

そしたら、ふっと、力失って。
以後ずっと今みたいなあいつだよ。』



高瀬はその日何かを殺したんだろう。

自分の、肉体以外の何かを。





「一人として、まったく同じ基準のやつはいない。
だから‥他人から見てそれが“虚勢”とか“逃げ”でも、本人にとっては本当の強さだったりするのかもな。」



いつかの高瀬の台詞が思い出される。


彼は文子さんについて、見つかりそうもない納得できる答えを探し続けてるんだ。

満身創痍で‥。