要するに、母の天敵ともいえるこの()()(もう)(りょう)……もとい篠沢一族を相手にするのに、わたしの味方はほとんどいない状態だったので、わたしは泣いている場合ではなかったのである。
 もちろん、この人たちがみんな母の敵というわけではないのだけれど……。

「……ホント、アンタんとこ大変そうだね。あたしじゃムリ」

「でしょう? 分かってくれる?」

 彼女は葬儀の間、わたしの隣に座ってくれていた。わたしには、それが何より心強かった。

 彼は葬儀を取り仕切る総務課の人間だったので、残念ながらわたしと二人きりで話し込む時間はなく、式前にわたしに目礼しただけだった。
 でも、まだ交際しているわけでもない相手にしがみついて泣きわめくわけにもいかなかったので、わたしは彼に寄りかかりたい気持ちを何とか押し殺していた。

 ――父の葬儀は仏前式ではなく、もちろんキリスト教式でもなく、いわゆる一般的な献花式だった。
 父の(ひつぎ)の前に献花台が設けられ、参列者一人一人が白い花を一本ずつ手向(たむ)けていった。

 最後に喪主である母が花を手向け、参列者に丁寧なお礼を述べ、いよいよ出棺の時が来た。

「――ゴメン、絢乃。あたしはここで退散するよ」

「えっ!? 里歩、火葬場までついて来てくれないの?」

 もう帰る、と言った彼女に、わたしは困惑した。――どうせなら、最後の最後までついていてほしかったのに。

「うん……。だってあたし、この中でははっきり言って思いっきり部外者じゃん。さすがに火葬場までついていくのは申し訳ないっていうか。……もう香典も渡したし、あたしの務めはここまでってことで」

「……そっか。分かった。ありがとね」

 もしかしたら彼女は、この後に起こるドロドロの骨肉の争いを見たくなかったのかもしれない。
 セレブ一族にとってこれは切っても切り離せないものであり、わが一族も例外ではなかった。……ただ、幸いにも父は婿養子だったので、争いの種になったのは経営にまつわることのみで収まったのだけれど。

「――絢乃さん、加奈子さん。火葬場までは、僕が責任をもって送迎いたします」

「桐島さん……。よろしくお願いします」

 わたしたち母娘(おやこ)が火葬場まで向かうための黒塗り社用車の運転を担当したのは、なんと彼だった。
 わたしと母は後部座席に乗り込み、彼が外側からドアを閉めてくれて、社用車は父の棺を乗せた霊柩車の後ろについて火葬場へと向かっていった。
 ふと後ろを振り返ると、同じような社用車や黒塗りのリムジン、ハイヤーがズラズラ(つら)なって走っており、その光景は何だか異様だった。