今度は氷彗が私に顔を向け
真剣な…と言うより、不機嫌そうに言葉を掛ける。

「《《地位》》が高いって
 そんなに偉い?」

「え…」

この1週間でまだ1度も見た事のなかった冷めきった瞳で唐突な質問をするから、どうしてかわからず答えられなくなってしまった。

「俺は、地位も名誉もいらない。
 なんなら、あんな親もいらない」

きゅ、究極の毒吐き…
ここまで言うくらいなのだから
お父さんと何かあった?

ってまぁ聞かないけどね。
そりゃ色々あるさね、家庭環境なんて。

「思う事は、人それぞれ。
 氷彗は氷彗自身の人生を歩んでいるんだから
 良いんじゃない?」

暗い影を落とす彼に
フォローってほどじゃないけど
重たくならない程度に答えてみるものの
当の本人はムスッと口を閉ざしたまま。

信号が青に変わり
また車が出発。



私は余計なこと言ったんだろうな…
完全に怒らせちゃったよ。

悪い事しちゃったなと後悔したまま
私は黙って窓の外を眺め
2人とも何も話さずしばらく車を走らせていた。



するとーー



「…ねぇ」

「ん?」

先に沈黙を破ったのは
意外にも氷彗から。

「やっぱり気になるもの?
 どうして医者の息子がこの家で一緒に住んでんのかって」

自ら話を振ってきた事に少し驚いた。

けれど複雑そうな横顔は
触れてほしくないように見える。