車を走らせる氷彗に
私はさっき見た光景を話した。

院長回診(あぁいうの)って初めて見た。
 本当にあるんだね」

「…」

相変わらず答えてはくれないけれど
今日は特に無口。
ううん、違う。
昨日から…だったようにも思える。

何かあった?と…したら
何が原因?

まさか…
私の、裸・・・

「それは困るッ」

窓の方を向き小声ながら声に出してしまうと
運転中の氷彗に『なに』と横目で流された。

『あはは…』なんて苦笑いする私に
彼は小さく溜め息を1つ。

そしてようやく
重たい口を開いた。

「さっき言ってた“院長回診”
 その真ん中にいたのが、俺の父親」

「・・・え、えッ!?」

衝撃に面食らって
彼を見つめて瞬きを数回。

あの医者…
氷彗のお父さん?

って…

「えぇ゛ッッ!?」

「うるさいなぁ」

狭い車内にも関わらず真隣で大きく騒いだせいで
氷彗はビクッと肩を震わせ
怒気に目を細められるから
ひとまず謝罪し前に向き直した。

「あの人がお父さんだったんだ…
 全ッ然、顔を見なかった」

『本当にあるんだ、こんなシーン』って
そればっか考えて見過ごしていたから。

「別に見なくて良いよ。
 何も特別な事なんてないんだし」

「大学病院の院長でしょ?
 凄い事じゃん」

「…そう、見えるんだね」

言葉に重みを感じてまた横に顔を向けると
ちょうど赤信号で停車。