「こんにちは、相変わらず忙しいね。これ、みんなで食べて」

 待合室に入って来たスポーティーな五十代くらいの女性が、ケーキ屋の箱を受付の美丘さんに渡した。

「いつも、ありがとうございます。今日はジェイクは?」

 あああ! ボランティアで献血ドナーをしてくれていた、ジェイクの富浜さんだ!
 美丘さんも、ジェイクって呼んでいるんだ。

「ジェイクは主人と家でお留守番、忙しそうだから帰るわね」

「あのジェイクくんのお母さん。初めまして、新人看護師の星川と申します。よろしくお願いします」

 “あのジェイク”のなんて前置きして、声をかけたもんだから、富浜さんが少し驚いて私を凝視している。

 まさに穴が開くほど、じっと。

「可愛いわねえ、お人形さんみたい。言われ慣れてるよね。でも言わせて、可愛い。こんなに可愛い子がふつうに街にいるって、びっくりしちゃった」

 そんなに言われても、お礼しか出てこないよお、困ったな。

 海知先生なら、この外見に産んでくれた両親に感謝しています。とか平然と言ってのけそう。

「海知先生は、『このルックスを造ってくれた両親に感謝してます』って、おっしゃったのよ」

 言ったんか──い。

「海知先生の、無死角な美形イケメンも最強だけど、あなたも相当よ。さっきから、じっと見つめてごめんね、可愛いんだもの」

 ひとしきり褒められて感動されたあとは、狂犬病ワクチン予防注射の日のことを話した。

 海知先生とジェイクのエピソードに感動して、どれだけ信頼関係を築けているかを熱弁してしまった。

「海知先生が『ジェイクのおかげで助かった命も数え切れない。ジェイクは、仲間の命の恩人なんだ』って、おっしゃっていました」

 海知先生が、どれだけジェイクを愛しているかも話していたら、胸の高まりを感じた。

「ジェイクくんに助けられた、たくさんの命があるんですね。今も仲間たちは、元気に過ごしているんですね」

 じっと私の話を聞いてくれている、富浜さんの微笑みが優しくて。

「私を見上げるジェイクくんの優しい笑顔に、涙が溢れそうになりました」
 高まりつづける高揚を抑えられない。

「私の涙に、海知先生がもらい泣きしそうだったんです」

「恥ずかしいから、もうそれくらいにしてくれよ」

 診察を終えた海知先生も、富浜さんに挨拶がしたいって受付にきていて、私の話を聞いていたみたい。

 そんなことさえ気づかないくらいに、夢中で話していた。

 海知先生と数分話したら、込み合う待合室の状況を察する富浜さんが、仲秋をあとにした。

「よかったですね」
「ケーキか?」
「違いますよ」
「わかってるよ」
 照れ隠しかな、海知先生でも隠すってあるのかな。

「富浜さんが、お顔を見せに寄ってくださってよかったですね」

「星川、褒めすぎ」

「どれだけ海知先生がジェイクを愛してるか、富浜さんに伝えたかったんですもん」

「おい、それより俺は泣いてねえよ」
「泣いてましたよ。海知先生、ぜんぶ聞いてたんですね」

「自分のことみたいに、熱っ苦しかったな」
 脱力気味に、ひらひらと手を振る。

「ありがとう、嬉しいよ。ジェイクは仲間の命の恩人だから」

 ダメだ、そんな眩しそうに優しく細めた目で見つめないで、かっこよすぎ。