「引っ掻く、噛む、蹴るって、猫の本能を人間が躾で抑えることは難しい。猫にも意味があっての行為だから、よけいに」

「野生動物みたいな猫と暮らしてる人たちの気遣い、目配り、心配りって凄くないですか?」

「犬の飼い主もおなじことしてるだろ」
「猫を飼ってる人たちを尊敬します」
「犬を飼ってる人たちも躾をしたり、根気強いよ」

 どちらも動物の命をあずかり、世話をする覚悟に尊敬する。

「だって猫の本能をなるべく刺激しないで、常に猫が不愉快にならない環境づくりをして、共存してるんですよ?」

「まあな、単純に猫は自分が嫌なことをされたら、攻撃するんだもんな。犬は群れで暮らすから、割りと我慢強い」

 うんうん、わかるわかる、犬って健気だわ。

「たしかに今日の野良猫は、本能を剥き出しでしたね。我慢強いとは、ほど遠い」
 警戒心も闘争心も、桁外れの暴れん坊だったな。

「あの気性なら、この都会でも野良猫でやっていけそうですよね」
 交通事故と怪我や病気の感染症や感冒に気をつければね。

 って、あれ? これじゃあ都会で野良猫をやるのは危険か。

「文献によると、犬猫の寿命は、犬は都会、猫は郊外の方が長生きする」

「郊外の方が自然が残っていたりして、猫は伸びのび自由に生きられてると思います」

 田舎の猫たちは、のんびり暮らしていると思うもん。
 こっちに出てきたら、首輪をつけた家猫が外に出ている姿は見たことがない。

「田舎の方が暮らしやすいと思います」

「だろうな、野性的な特性を持つ猫に、都会の生活は合わないのかもしれない」
 交通事故云々じゃなくて、まず特性で野良どころか、猫自体がってことなのか。

「猫は群れない習性なのに、都会では団体で共存したり、上下運動ができにくい低く狭い住宅事情だったり」

「猫にとっては、我慢が多くてストレスだ、外にも自由に出られやしない」

「郊外で暮らす半室内飼いの猫なら、少しは自由にお散歩できてると思います」

「猫に、“外に出ると交通事故に遭うから危ないんだよ。お前のことが大切だから、外には出さないんだよ”って説得しても、猫には理解できないしな」

 それで素直に言うことを聞いてくれたら、世話ないね。
 まず、たとえ理解しても、聞かない子の方が多いでしょ。

「今日の野良猫みたいに、特に発情期はそうでしょうね。猫には、交通事故もオス同士の喧嘩もわからないですもんね。本能で外に出たい」

「言い聞かせて、わかってくれる相手じゃない。野生動物の特性を持ってるから」

「海知先生が教えてくださった通り、人間の赤ちゃんといっしょでもありますよね」

 私が覚えていることが嬉しいの? 海知先生の微笑みが柔らかい。

「環境スペースのストレスもあるよな。それに、犬みたいにリーダーに支配される特性じゃないから、人間からの支配はストレスだろう」

「命令や束縛の支配下で一生過ごす。たしかに、猫にとっては苦痛でしょうね」
「獣医としては、猫といっしょに暮らすなら」
 暮らすなら?