<グスタフ皇国の王宮・書斎・23時>

その晩、
アンバーは落馬した悔しさと、
打ち身の痛みで、眠ることができなかった。

みんなの前で、恥をかかされた。

「なんなんだっ?
あの、度肝を抜く意味のない
パフォーマンスは!!」

クラリスの件がなければ、
自分が1位だったはずなのだ。

グスタフ皇国の男子は、
名誉を重んじる。

眠れない時は・・
父上の書斎にある<あれ>が効く。

アンバーは
少し足を引きずりながら、
廊下に誰もいないのを確認すると、
皇帝の書斎の扉をそっと開けた。

鍵の在り処は知っている。
本棚の3番目の本の中に、
くり貫いて、しまってある。

アンバーは鍵を取ると、戸棚の鍵を開けた。
父上がこっそりしまっている
<あれ>
ワインやビールより強い。

奥にあるボトルを取り出すと、
小さいグラスに液体を注いだ。

薄い緑色をして、トロリとしている。
薬草のにおいが、鼻をつく。
そして少し苦みがあるが、甘い。

薬草リキュールは
魔女の国の名品だが、手に入れるのは難しい。

アンバーはグラスを飲み干した。
喉が焼け付くようだが、
そのあと、薬草の香りが心地よさを誘う。
そして、体の力が抜ける。

「くそっ!」
アンバーは怒りを感じながらも、
甘さとアルコールの強さで
息を吐いた。

クラリスが最初から
競争する気がなかったのが、許せない!
しかも、あのふざけた馬はなんだっ!

この交流会のために、
みんながどれほど頑張ってきたか・・・
準備をしてきたか・・

「あいつは、まったくわかっていない!!」

明日は交流会4日目だ。

アンバーは
薬草リキュールの瓶を戻そうと、
戸棚の奥に手を入れた。

いくつかの書類が束になって、
床の上に落ちた。

1枚の絵姿がアンバーの目に
留まった。
「ミエル・・?」

似ているが、髪の色が違う。
クラリスに感じが似ているが
もっと年上だ・・・
とても美しい人。

床に散らばった書類は、
すべて皇帝の手書きのものだった。
魔女の国についての情報。

なぜ、父上は極秘で情報を集めているのだろうか。
それも、自分で・・・

魔女の国は謎だらけだ。
問題児のクラリスと、
態度の悪い<使い魔>のイーディス。

アンバーは元通りになるよう、
慎重に片付け鍵を閉めた。