<グスタフ皇国・王宮・音楽室・交流会5日目・17時>

窓にはもう、夕日が落ちかけ、
室内が薄暗くなろうとしている。

音楽室には誰もいない。
アンバーは一人、
クラビィーアの前に座った。

先ほど、ミエルと弾いた旋律を
繰り返す。

もう少し
あの魔法の世界の余韻に、
浸りたかった。

クラリスは
明日は参加するのだろうか・・・

もっと、
冷静に話をすることが
できたのではないか・・

つい、感情的になって
強い言葉を投げつけてしまった。
明日、話ができるといいのだが・・

クラビィーアの楽譜を手に取り、
戸棚にしまおうとした時だった。

誰かが、音楽室のドアを開けた。

「だめよ・・」
「だめじゃないっ!」

アンバーはその会話に何となく、
カーテンの陰に隠れるように
身を置いた。

ミエルとイーディスだった。

イーディスはミエルの手を握り、
抱き寄せようとしていた。

「何をやっているんだっ!!」

アンバーが大声を上げ、
カーテンから飛び出た。

ミエルがアンバーの声で
飛びのいた。
アンバーは怒りを持って、
イーディスに詰め寄った。

「うちのエルフに何をするんだっ!」

「はぁ、<うちのエルフ>ですか・・
グスタフ皇国の皇太子さま」

イーディスはまったくバカにしたように、
アンバーの視線を受け止めた。

「そうだ!うちのエルフだ!
そう言って何が悪い!!」

イーディスは教師が生徒に、
諭すように言った。

「まったく、おまえはミエルの
献身を理解していない。
それでも(あるじ)というのか。
まったくもって、お坊ちゃまは困る」

「お願い!イーディス!!
もう、やめてっ!!」
ミエルの悲鳴に近い声が上がった。

イーディスはアンバーを冷たい目で見据え、続けた。

「お前たちは、エルフを恐怖で
支配しているだけだ。
心臓のひとつを取り上げてな。
エルフは所有物ではない!」

イーディスは、
アンバーの上着の襟をつかんだ。
背丈は少しイーディスのほうが
高い。
そして、声を低くして

「皇太子さま、
これ以上ミエルを苦しめたら、
お前を殺す!」

「手を離せっ!」
アンバーが叫んだ。

その時
ミエルの手が、イーディスの腕を
つかみ、
アンバーから引きはがそうとした。

ミエルは泣きながら、アンバーを
かばうように立ちはだかった。

「イーディス!!
もう、構わないでっ!
早く行って!!」

イーディスは、ミエルの剣幕にひるんだ。
「くそっ・・!」

イ―ディスはアンバーを睨み(にらみ)つけ・・・
消えた。

「ごめんなさい・・ごめんなさい・・」

ミエルは
アンバーの足元に崩れるように
座り込み、謝罪を繰り返す。

「あんな奴!二度と会うんじゃないっ!!」
アンバーはそう言い放つと、
ミエルを振り切って
足早に音楽室から出て行った。

なんなんだ!
魔女の国の奴らは!!
あの傲慢(ごうまん)な使い魔といい・・

アンバーの怒りは収まらない。